青山のデザイン事務所で働くことになった
青山へ。
私が二十歳そこそこの頃、大学生の頃だ。万年筆を買おうと表参道駅をおりて、骨董通りを歩いて行った。飛び込んでくるまばゆい光、色彩、目も眩むような街だった。独学でやってきていつかこの辺りで働けたら本望だろうと思っていた。そしてそれは無理な話だろうとおも思っていた。いったい毎年何人の新しいデザイナーが専門学校や美大、さらには芸大から排出されるというのか、お前はその中をたった一人で、誰でも手に入れられる書物と平凡なセンスで挑もうとするのか、と。
きっかけは転職サイトだった
今の生活に満足しているわけではなかったが、たいして不満もなかった。私はわがままだから言いたいことは言えないけれど、それでもやりたい仕事はやらせてもらえた。いろいろ怒られたりしたけれど、それはデザイナーとして教育してもらっているという感じもあったし、ごく当たり前な世界だったんだろうと思っていた。ただ自分の中で東京、新宿で働くことに少し飽き始めてもいたし、まだまだわがままだった。もし次に行くとしたら最後の挑戦、多分青山辺りなんだろうか、と思っていた。そんな頃昔使っていて長らく放置していた転職サイトにメールが入った。スカウトまではいかないが、履歴書に興味がありますというものだった。
勤務先は神宮前、表参道と外苑の真ん中あたり
嘘だろう?と思った。そもそも放置していた履歴書は一番最初の会社しか書いていなかった。今働いている新宿の制作会社については何も記載していなかった。そしてもっと驚いたのは。ビクタースタジオが近い・・・!
聖地だ。
われわれサザン応援団にとって、キラーストリート(一般の人は外苑西通りというらしい)は聖地だ。そう、10年前から時は流れて、私はめっきりサザンのファンになっていたのだ。私にとって青山というのは東京の中でも随一のゆかりの地になっていったのだ。表参道を起点として南に行けばエウロピのモデルがいた南青山、北へ向かえば青山ビクタースタジオがある。これは何か運命的なものがあると思った。
いくつかの奇跡
面接の日はとても緊張することになった。案内されたスペースはコンクリート打ちっ放しのデザイン性の高い打ち合わせルームで、さすがは青山だなという感じがした。そして緊張のあまり帰ろうと決意した。ここは私には過ぎる、と。時間の感覚がわからなくなっており、昔から腕時計とつけていない習慣を恨んだ。20分くらい経ったような気がしてようやく面接が始まった。そして、
ラジオからサザンが流れた。
はっとした。我に返った。サザンのアロエ・・・。あの目の覚めるイントロ。だから勝負、勝負、勝負でろ。勝負に行こう!何をしに来たんだ、俺は。緊張しつつも解き放たれた気がした。ちょうど探していた職種(DTP)だとわかり、こちらも少し安心した。そうすると次は制作のトップが呼ばれておりてきた。
僕も前こういう仕事をしていました。
奇跡が・・・2回??
あまり口に出せない、書けないたぐいのニッチなお客様の仕事。その偶然という奇跡。さすがに「決まった・・」と思った。ここまでの偶然はもうないだろう。やはり青山と私はかなりの縁で結ばれているらしい。ちなみにお客様というのは投資信託の会社だ。これで私の転職活動は終わった。
転職というの浮気でしょうね。
会社を辞めると言った時、みんながそれを知る時、ずっと隠していた私。この感覚は最初の会社を辞める時にはなかった。最初の会社はただ「辞めた」だけだったから。理由は東京で働きたかったから、あの頃本気でデザイナーになりたいと思っていたから。今回の転職は違う。次が決まった上でみんなに「告白」するような感じだった。一瞬で関係性というのは凍結される、もう他人になる、もう合わなくなる。ずっと隠していたんでしょう?と見透かされていくような感じで。
東京で、またしても同じ過ちを繰り返す、因果なもんだ。
東京へ来た時、もう自分の夢は叶ったような気になっていた。これからはデザイナーなのか、と心をときめかせた。実際はオペレーションの日々だが、そういうほうがむしろ向いていた。そしてオペレーションやオペレーターを下に見ているデザイナーに腹が立った。だがそういう人たちとも仕事をしていって、いろいろ仕事をもらって、指導してもらった。そして気づいた。もうデザイナーとかオペレーターとか、そういう区別をつける時代じゃないんだ、なということに。だから青山のデザイン事務所でただ一人のオペレーターとしてやっていこうと思った。だがなぜだか肩書きはデザイナーだった。なんだか胸が詰まる思いだった。そっと静かに目を閉じる。
サザンの聖地、青山キラーストリート
サザンのフルアルバム「KILLER STREET」。サザンとしてやりたいことは全てやったというアルバムはもう10年以上も前の作品。この街を歩くたびに、嬉しい気分になる。
昼間の聖地巡礼はやはりビクタースタジオでしょうね。ここが聖地。ここがサザン。
予定では東京オリンピック開会式はサザンです(私の中で)。GLAYも来て欲しいです。ここはいつも工事中。出来上がるのが楽しみです。本当はザハ・ハディドのデザイン案が通ればよかったなと思いました、でもここは日本のスポーツの聖地だろうから、やはり日本人建築家のデザインでよかったかもしれません。
耳をすませばロックンロール・スーパーマンが聞こえてきそうな、アルバムジャケットそのまんまのキラーストリート。サザンもみんなで記念撮影しましたもんね。
晴れた青山は、とても綺麗です。