ムンク展(東京都美術館)に行ってきた。
ムンクといえば叫びである。もしそう思う人がなるなら、それは大きな間違いだ。
叫びはムンクの代表作であるが、人気作というわけではない。ムンクの叫びが有名なのは主に日本だけなのだ。私は一美術ファンとして、決してムンクの叫びに関するグッズばかりを買う人間はただのミーハーにすぎないと思っている。
とりわけポケモンとコラボした今回の展覧会において、それ目当てに行くというのは正直言って考えものである。
まさかノルウェー土産を買いに行くなど持っての他である。
ムンクといえば、なんなんだろうか。
ノルウェーの首都がオスロではなくまだクリスティニアだった頃、ムンクは生まれた。いずれ生まれたクリスティニアはオスロとなり、国を挙げての近代化政策の中で、近くには国立美術館ができる。ムンクはノルウェーが近代化する中で共に育ち、そして印象派のパリがあり、ムンクが評価されたベルリンがあった。ちょうど明治の日本も、多くの知識人はパリやベルリンに行ったように、ノルウェーのムンクもその一人だった。天才的な画家がそうした「西洋」で評価され、天才らしく憂鬱質でアルコール中毒で、幻覚もみるし恋人にはピストルで撃たれる始末。それでもベルリンで評価されて大金を手に入れ、再びノルウェーに帰国。北欧の豊かな自然と雪原と海と恋人と自分自身を描き続けた、まさにノルウェー切っての最高の画家である。
カタログより失礼する。
ムンクは夏を海で過ごすことが多く、その中の一枚である。若き日の憂鬱さが絵から溢れ出ているようである。
ムンクの代表作は叫びだが、同時に接吻のシリーズも有名である。恋人が溶け合い、一つの生命体になるかのような表現は、ムンクらしいといえばムンクらしいかもしれない。
生命のダンスは、全体が調和に満ちており、夏の夜の海でのダンスが描かれている。左側の白いドレスの女性は若い時、右側の黒いドレスの女性は老いた姿。一枚のキャンバスに生命が描かれている。ムンクにとっては生命、その時の流れをキャンバスに描くことが重要だったのか。
太陽がムンクの絵の中でどうしてすごいのか、それはムンク自身が「この絵によって新しい表現を得た」と語ったところから来ている。今までのムンクの作品に加えて、太陽は本当に力強さと光を感じる。ムンクの新しい表現を見ることができる。
ムンクの描き方について。
絵を近くから見て見ると、評伝にもあるように随分と薄く描かれている。チョコソースのような油絵をベトベトにつけて描くような書き方は好きではないと言っていたように、ほとんどテレピン(絵の具を溶かす油)を多く含ませて描いたように見える。キャンバスには描き残しのようなところもあり、当時のノルウェーではあまり理解されなかった。薄塗りと緑や青を使った新しい色彩感覚はパリやベルリンで評価されるようになり、その後は本国ノルウェーでも国民的画家となる。
ムンクはニスを塗ることが好きでなく、そのためムンクの絵はニスが塗られていない。絵肌がそのままのムンクの絵をぜひ間近で見て欲しい。と私は思う。
この展覧会はかつてないほどに貴重である。